GSC入門特別号
SDG's入門
GSCはSDGsのけん引役
持続可能な将来に向けて
世界を変えよう!

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SDGsとは、国際連合が採択した世界共通のゴールで、持続可能な開発を達成するために経済と社会、環境の三要素を調和させることが不可欠だとしています。この考え方は、社会の持続可能な発展に向けて、環境保全と経済発展の両立をめざすGSCと共通しています。このテキストは特別号として、SDGsをGSCの視点で解説し、みなさんに考え、実践してもらうことをめざします。
SDGsとは
SDGs は国際社会共通の目標
持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)は、2030年までの「国際社会共通の目標」です。グローバルゴールズという通称もあります。2015年9月に開催された国連サミットで、日本を含む193の加盟国の合意により採択されました。また、同時期に開催された第70回国連総会で採択された「Transforming our world: the2030 Agenda for Sustainable Development(我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ)」(英文和文仮訳)にSDGsが記載されています。
SDGsは、貧困に終止符を打ち、地球を保護し、すべての人が平和と豊かさを享受できることを目指しています。
世界を変える
2030アジェンダのタイトルに“Transforming our world”と示されているようにSDGsの目標は、「世界を変えること」です。この目標は、People(人間)、Planet(地球)、Prosperity(豊かさ)、Peace(平和)を追求するためのもので、国際社会のPartnership(パートナーシップ)により実現をめざします。これら5つのP、すなわち5Psが世界を変えるために取るべき姿勢の基本です。
SDGsに取り組むために
17のゴール
2030アジェンダでは、世界を変えるために5Psという基本姿勢を掲げ、それらをもとに世界を変えるための具体的な17のゴールを設定しています。これがSDGsの17のゴールといわれるものです。また、達成すべき課題として、169の目標(ターゲット)を示しています。例えば、GSCと関連が深いゴール7のターゲットを下記に示します。
SDGsに掲げたゴールは先進国、発展途上国を問わず、世界中が取り組む普遍的なものです。
17 のゴールは互いに関連する
17のゴールは相互に関わっており、貧困を解決するために経済成長を促し、教育や健康など幅広い社会的要請を充足しながら、気候変動と環境保護にも取り組む戦略も必要なことを示しています。
これら17のゴールの関連性はストックホルムのレジリエンスセンターが作成したウェディングケーキモデルに示すことができます。このモデルでは、17のゴールは「経済圏」、「社会圏」、「生物圏」の三つの層に分類され、お互いに関連しあっています。土台になっているのは、ゴール13(気候変動に具体的な対策を)、ゴール14(海の豊かさを守ろう)、ゴール15(陸の豊かさも守ろう)とゴール6(安全な水とトイレを世界中に)からなる「生物圏」です。その上に、「社会圏」が、さらにその上に「経済圏」が乗ります。これは、経済は社会に、社会は生物圏すなわち環境に支えられていることを示しています。環境の持続可能性なしには、社会や経済の持続的な発展は成り立たないとレジリエンスセンターは述べています。
SDGsの概念を示すウェディングケーキモデル
17 のゴールの関係性を理解し、お互いがどのように連携し、課題の解決に立ち向かうかが理解できる。
三つの要素を調和させる
ウェディングケーキモデルで17のゴールを分類した三つの層「経済圏」、「社会圏」、「生物圏」は、SDGsの核となる三つの要素「経済、社会、環境」にあたります。2030アジェンダでは、持続可能な開発を達成するためには、経済、社会、環境の三要素を調和させることが必須であると明記されています。ただし、ウェディングケーキモデルでわかるように、環境の持続可能性がすべての持続可能性の大前提です。
「社会的包摂」とは、全ての人々を孤独や孤立、排除や摩擦から援護し、健康で文化的な生活の実現につなげるよう、社会の構成員として包み支え合うことを意味します。すなわち、だれ一人取り残さず、すべての人が受け入れられ、参加できる社会であることは、世界を変えるために大切であり、持続可能性に欠かせません。
SDGsがなぜ必要なのか
2030アジェンダ前文では、最も重要な課題として、「貧困の解消」を掲げ、leave no one behind(だれ一人取り残さないこと)を誓っています。すなわち、SDGsは、途上国から先進国まですべての国と地域が対象です。なぜ、世界中の国でSDGsが必要なのでしょうか。ここで、SDGsが生まれた背景を説明します。
貧困への国際的な取り組み
SDGsの前身には、2001年に策定された「ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals:MDGs)」があります。貧困の克服をめざした途上国の開発が主な目標で、2015年までの15年間で達成をめざしたものです。極度の貧困と飢餓への対策、致命的な病気予防、すべての子どもへの初等教育普及など国際社会の支援を必要とする課題を解決するために8つのゴールや21のターゲットなどを掲げました。国際的な取り組みの結果、多くの分野で成果があった一方、南アフリカでは貧困などに対する取り組みが遅れており、貧富の格差の拡大など、課題も多く残っています。貧困の解消に向けた取り組みを続けることはまだ必要です。
生存できる環境を維持する(環境の持続可能性)
MDGsは一定の成果を上げたものの、その間に地球温暖化など地球環境をとりまく問題は深刻になり、その対応が迫られるようになりました。そこで、国連が長年主張してきた持続可能性(Sustainability)の取り組みを加え、MDGsの次の15年間を担う新たな目標として、SDGsがつくられました。
持続可能性とは、私たちが生存できる環境を維持できることを意味します。その起源は1987年に「ブルントラント委員会」(1984年に国連に設置された環境と開発に関する世界委員会)で取り上げられた持続可能な開発の概念にあります。地球の資源は有限であり、「将来世代のニーズを損なうことなく現在の世代のニーズを満たすこと」というその概念は、その後の地球環境保全のための重要な道しるべになりました。その後、貧富の差の拡大や貧困問題は、人類社会の存続を脅かす可能性のあることが認識されるようになり、2000年の国連ミレニアム・サミットで明確に示されました。
世界へ呼びかける
地球資源には限りがあり、持続可能な発展のためには、地球環境問題の解決が必要です。そこでMDGsを土台に策定されたSDGsは、MDGsに掲げた貧困の解消に加え、気候変動や経済的不平等、イノベーション、持続可能な消費、平和と正義などの新たな分野が加えられたのが特徴です。SDGsは、世界をより持続可能な道へ導くための緊急の呼びかけでもあるのです。
また、SDGsが採択された2015年には、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で「パリ協定」も採択されました。これは2020年からの地球温暖化対策における国際ルールです。世界がパリ協定に基づいて、気候変動へ取り組むことは、SDGsの達成に重要な役割を果たすことになります。
GSCの三要素とSDGs
国際的な流れ
SDGsとGSCの考え方はどちらも「持続可能な開発」の歴史と関わっています。人間環境について議論されるようになったのは、1970年代からのことです。1972年の国連環境会議で「人間環境宣言(ストックホルム宣言)」が採択され、環境問題の国際的な議論が始まりました。1987年のブルントラント委員会で「持続可能な開発」が提唱され、概念が定義されました。1992年ブラジルのリオデジャネイロで行われた国連環境開発会議(地球サミット)では、「環境と開発に関するリオ宣言」が採択されました。
リオ宣言では、持続可能な開発が重要なキーワードになり、世界各国が地球環境と調和する開発に向けてさまざまな取り組みを始めたのです。その後、国連では持続可能な開発の実現に向けて目標が定められるようになり、2015年にSDGsを含む持続可能な開発のための2030アジェンダが採択されました。
GSCの歴史
リオ宣言を受けて、化学に携わる人々を中心に持続可能な開発に向けた取り組みが始まりました。米国では1994年にグリーンケミストリーが提唱されました。これは、「廃棄物を出してから処理をするのではなく、廃棄物を出さないように生産する」という理念に基づきます。EUでも1994年に持続可能な開発に向けた「SUSTECプログラム」が創設され、1998年には経済開発協力機構(OECD)がサステイナブルケミストリーを提唱しました。これらの基本的な理念は、「効率よく効果的で安全かつ環境によりやさしい化学製品と化学プロセスを設計、生産、利用する」というものです。
同じ頃、日本でも持続可能な開発に向けてのグリーンケミストリーの取り組みが始まり、1998年に環境負荷低減と持続可能社会を組み合わせて「グリーン・サステイナブル ケミストリー(GSC)」と名付けられました。その後、2015年には第7回GSC国際会議で「東京宣言2015」が採択され、GSCの取り組みが強化されています。
GSCは、「人と環境にやさしく、持続可能な社会の発展を支える化学」を追求するものです。社会の持続可能な発展のために化学ができることとして、「地球環境との共生」、「社会的要請への充足」、「経済の合理性」の三要素を同時に達成する化学技術の開発こそがGSCが追い求めているものです。GSCの三要素はSDGsの三要素に含まれ、考え方には多くの共通点があります。すなわち、GSCの活動はSDGsに貢献するものです。
国連の動きとGSC の歴史、および三大要素の比較
GSC の実践はSDGs に貢献する。
GSCはSDGsのけん引役
東京宣言2015」は、世界で連携してGSCに取り組むことを表明したものです。東京宣言に記されたGSCの理念とSDGsを比べると、多くの類似点があることがわかります。以下に示した東京宣言のSDGsと対応する部分の一部を黄色で示しています。
SDGsの達成に向けた化学の取り組みは広範囲にわたり、GSCはその中でけん引役であることを示しています。
東京宣言2015
我々、「第4回 JACI/GSC シンポジウム・第7回 GSC 東京国際会議」の参加者は、世界の持続可能な発展のための弛みない努力において、その基盤をなすイニシアチブとして、「グリーン・サステイナブルケミストリー(GSC)」の推進を、次のように宣言します。
我々、世界の化学に携わる者は、社会の持続可能な発展のために、未来にむけた研究・イノベーション・教育、および環境に配慮したシステム・プロセス・製品を志向する開発に取り組んできました。
1992 年の地球サミットにおけるリオ宣言及びそれに続く諸条約を受けて、世界の化学に携わる者は、産・学・官一体となり共通の目的意識をもって、グリーン・サステイナブルケミストリーの採用と活用を前進させるために、困難な課題に取り組んできました。すなわちその取り組みにおいて、地球環境との共生、社会的要請の充足、および経済の合理性を同時に達成することをめざしてきました。またその目標は、化学製品の設計から、原料の選択、製造過程、使用形態、リサイクル、廃棄までの製品の全サイクルにおいて、より良い、健康、安全、環境とともに、品質、性能、および雇用創出へも配慮して、循環型経済に向けて追及すべきものとされてきました。
食糧と水供給の確保エネルギー創出と消費、資源効率、新興市場、および技術の進歩とその責任ある工業的実施などの長期的・全地球規模の課題が、限られた時間の中での革新的な解決と、本問題を厳粛に注視することを必要とする、一層大きくかつ複雑な社会的懸念事項となっています。それゆえに、これらの課題解決を図り、より健康で豊かな社会の持続可能な発展をもたらす牽引役として、化学に関わる科学と技術を基盤とするイノベーションへの期待は、益々大きくなっています。
「グリーン・サステナブルケミストリーの新たな発展へ」の討議全体を通じて、グリーン・サステナブルケミストリーに関する理解を学問分野にとらわれず深めることによって、これらの地球規模の課題に今後十分に取り組んでいきます。
我々、世界の化学に携わる者は、グローバルな連携と協調によって、また、学問分野や、学、産、消費者、官、および国を隔ててきた従来の壁を乗り越えて、グリーン・サステナブルケミストリーを強力に推進していきます。
東京宣言とSDGsの比較
GSCの実践はSDGsの達成に貢献する
インタビュー
各々の立場で何ができるかを考えよう
安井 至 先生
(一財)持続性推進機構 理事長
東京大学名誉教授
SDGs のゴールを理解する
近頃、SDGsという言葉が頻繁に聞かれるようになりました。関連資料が目につくようになり、SDGsに取り組む企業が増えています。けれども、SDGsの本来の目標をきちんと理解している人はあまりいないようです。2030アジェンダに記載されているゴールは、目標と訳されていることが多いのですが、本来の意味は達成するための目標ではありません。ここでは、みんながゴールに向かう姿勢を示すことに意味があります。たとえば、ゴール1には「あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる」とありますが、このゴールを達成するのはそう簡単ではないでしょう。17のゴールは、「気候正義」の観点からつくられており、究極の行きつく先を意味します。169のターゲットは当面の目標になります。
世界を変える
SDGsの目標は「世界を変えること」です。まずは、本来の目標をしっかり認識して、自分であるいは組織で何ができるのかを考えましょう。ゴールやターゲットはあくまでも指標で、アジェンダに示された通りにやる必要はありません。ゴールを目指して、自分たちの立場では何ができるかを考えることが重要なのです。
そのためにはいろいろな立場の人と議論することも大切です(5PsのPartnershipに当たります)。ゴールを見据えてできることをみんなで考え、自分や組織なりに何かをやってみて、少しでも現状を変えることができればよいのです。その積み重ねが世界を変えることにつながります。「持続可能な開発のための2030アジェンダ」をぜひ英文で読んでみてください。

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